スピン-軌道相互作用は、スピン系を格子にピン止めする唯一の相互作用であり、いかに小さくとも本質的に新しい相互作用である。しかし、3d遷移金属(TM)の場合、結合エネルギーに比べて余りに小さいために、定量的に信頼できる計算を遂行することは現在の計算能力をしても難しい。本研究では、この磁気異方性エネルギー(MAE)が一軸性で大きな場合に、どの程度定量的な計算が可能かを調べたものである。実際には、「侵入型希土類化合物」の場合と「X/Co、Fe(X=Pd、Pt、Au、Ag)系の強磁性多層膜」の場合について第一原理からの電子構造の計算をおこなった。前者の場合、GdCo_5、GdFe_<12>、Gd_2Fe_<17>、GdFe_<12>N、Gd_2Fe_<17>N_3の電子状態をFLAPW法で計算し、希土類(R)イオンの周りの電子分布を調べた。Nイオンは周りのFeやRイオンと強く結合しており、Feとの結合は飽和スピン磁化を大きくするだけだが、Rイオンとの結合はRイオンの周りに異方的な電子分布を生じ、窒素の侵入による結晶場の大きさは、現在最良の永久磁石材料とされるSmCo_5のそれよりも大きい。この強い結晶場によってRイオンのf殻が固定されることが、窒化による大きな一軸磁気異方性発生の原因であることが明らかになった。X/Co、Fe多層膜の場合、スピン-軌道相互作用を含めたLMTO法の計算によって、これら強磁性多層膜のMAEを計算し、これらの系の垂直磁気異方性が系統的に説明できることを示した。尚、MAEのCo層の厚さ依存性や歪依存性についても計算を行った。
|