研究概要 |
磁気構造をもつウラン化合物のフェルミ面を理論的に予測するためには、電子エネルギーバンド構造を、局所スピン密度近似の枠内で、スピン軌道相互作用を考慮に入れて定量的計算を行う必要がある。本年度はスタートとして、従来の相対論的APW法にいくつかの改良を加えた。従来の方法は、APW球内部の基底関数として、求めるべきエネルギーに対するDirac方程式の解を用いるので、与えられたポテンシャルに対しては非常に高い精度をもつ。しかし、局所密度近似とマフインテイン近似の枠内でも、改良すべき余地を残していた:(1)4成分波動関数の小さい成分はAPW球上で不連続である。(2)行列要素の非線形的なエネルギー依存のために、多大な計算時間がかかる。本年度完成した新しい方法では、APW球内部の基底として、予め与えた2つのエネルギーに対するDirac方程式の解が用いられており、大小の成分を連続にすることができた。また、行列要素は求めるべきエネルギーに依存しないので、通常の一般化固有値問題として解くことができる。この方法は、相対論的効果、特に、スピン軌道相互作用を摂動として取り扱うことをせずに導かれた線形バンド計算法であり、以前の方法と同程度の精度をもつことが確認された。この新しい方法の有効性を調べるために、希土類4物質(CeRh_2,LaRh_2,YbGa_2,LaAg)、アクチナイド2物質(Th,USb)に対して計算を行い、フェルミ面を決定した。Usbを除き、これらのフェルミ面は最近測定されたド・ハ-ス-ファン・アルフェン効果の実験結果を合理的に説明できたばかりでなく、未観測の重要な性質を予測している。非コリニアー磁気構造に対する定式化と複雑な磁気構造をもつUSbに対する本格的な計算は次年度に行う。
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