反強磁性的なUPt_3やUPd_2Al_3、また、強磁性的なUGe_2などのウラン化合物の新奇な物性、特に、重い電子メタ磁性遷移、非BCS超伝導の性質が全世界的に研究対象となっている。これらの磁性体における5f電子は鉄族遷移金属における3d電子のように結晶内を遍歴し、かつ磁性を担っていると考えられるが、これらの磁性体の電子構造を求めるためには、鉄族遷移金属に通常適用される局所スピン密度近似(LSDA近似)のバンド理論を適用することはできない。何故ならば、一般的にウラン化合物においてはスピン-軌道相互作用が強いので、スピンが良い量子数ではなく、LSDA近似のように各スピン状態の電子波動関数を分離して解くことができないからである。 本研究では、スピン分極効果、相対論的効果、及び軌道電流の効果を同等に取り扱うことができる新しいセルフコンシステント・バンド理論を作り上げるための基礎を築いた。外部電磁場の中におかれた相互作用する電子系に対して、数密度、スピン密度、及び軌道電流密度を基本変数としてハミルトニアンを表し、それを基に相対論的な電流・スピン密度汎関数理論を展開した。初めに、一般化Hohenberg-Kohn定理が成り立つことを示し、次に、この定理から新しい相対論的Kohn-Sham-Dirac方程式を導いた。この新しい一粒子方程式は、軌道電流の効果を明確に示すために、孤立した原子にふさわしい形式で表されたが、ここには、磁気的相互作用が通常のZeeman項に類似した形式で表わされ、スピン角運動量と軌道角運動量が有効磁場と結合する項として表される。結晶内電子に対しても定式化は可能であり、現在、相対論的線形化APW法を適用した新しいセルフコンシステント・バンド計算法を作成している。
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