磁性層と非磁性層を交互に積層した人工格子の示す巨大磁気抵抗効果は基礎と応用の両面から注目される研究対象である。そのメカニズムの解明には非磁性層が磁気的にどのような役割を果しているかを理解することが重要であるが、これまでの研究は磁性層を対象にしたものがほとんどで、非磁性層を直接観察することは困難であった。本研究では非磁性メスバウアー原子核であるSn-119をミクロプローブとして利用し、巨大磁気抵抗効果を示す人工格子系であるCo/AuやCo/Cu中のAuやCu層に深さを選択して配置することにより、非磁性層中の磁気分極の様子を観察することに成功した。CuやAu層を20〜40Åとし、その層内で界面からの距離を変化させてSn-119(1.5Å)を配置しCo層と交互に10ないし20回積層した人工格子試料を作成し、メスバウアー吸収スペクトルの測定を行った。その結果Co層から10Åの距離まではSnに内部磁場が観測され、磁気的分極が及んでいることが証明された。ただし、Snの内部磁場はCu中とAu中ではかなり異なっており、特にAu層中では約70kOeと、強磁性Co層中におけるよりさらに大きい内部磁場であることが見出された。この原因はAuの軸道角運動量が寄与するためと考えられる。CuやAu中のスピン分極か振動型の分布をするならばSnプローブ層の場所を変えると内部磁場が振動的に変化することが予想されるが、えられたスペクトルの内部磁場はかなり分布しており、空間的分極の様子を調べることは不可能であった。これは、試料中のSn層が完全な平坦層状にはなっていないためと思われる。本研究によって非磁性層中の磁気分極の存在を確認するという成果がえられた。今後試料の一段の品質向上によって深さ分析についての精度の向上が期待できる。
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