平均粒径0.7μmのNi球の表面に化学還元法によりPdを被覆した複合微粒子の磁気近接効果と水素吸蔵特性について調べた。高感度交番力磁力計を用いて磁化測定を行ない、バルクNiに比べNi/Pd微粒子の保磁力は0.2kOeと比較的大きいことがわかった。これはNiとPdの境界面に表面磁気異方性が生じているためである。又、低温におけるNi/Pd微粒子の磁化は、約80Kで緩やかな極大となり、50K以下になるとNiの磁気近接効果のためにPd層は強磁性に転移し、磁化が増大した。このNi/Pd微粒子に水素を吸蔵させると、水素吸蔵前に見られた50K以下の磁化増大は消失した。これは水素吸蔵によってPdの磁化率が減少して強磁性分極が起こりにくいためで、ストーナーの強磁性条件とも良く一致している。水素は雰囲気中でX線解析を行ない、水素吸蔵によるNi/pd微粒子の構造変化を調べた。水素は、Pd層に速やかに吸蔵あるいは放出され、直ちに水素平衡状態に達する。これは電気抵抗測定からも確認した。水素雰囲気中でPd層の構造は、α相からβ相に変化し、そのため格子定数は約4%膨脹した。この格子定数の増加は、水素圧力が高いほど大きい。また、Pdの被覆量の異なるNi/Pd微粒子についてX線解析を行った結果、Pdの層厚が大きいほど格子定数の伸びが大きいことがわかった。 以上のように、表面磁気異方性の存在とPd層の強磁性転移の確認、水素吸蔵による構造変化の解析ができたことは、本研究上意義の高いものである。これらの結果は、International Conference on Magnetism 94(Poland)で口頭発表したほか、2件の論文として刊行した。なお、設備備品として購入した、温度可変He用クライオスタットは、所定の性能通りに完動しておりNi/Pd微粒子の低温磁化測定で有効な装置となっている。消耗品代は電子部品や寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)等の購入費として使用した。
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