強磁性体Ni微粒子の表面上に常磁性金属Pdを被覆した複合微粒子を用いて、NiとPdとの界面における磁気近接効果を水素吸蔵と関連させて調べた。試料は平均粒径0.7μmのNi微粒子にPdを化学還元法により被覆したNi/Pd複合微粒子である。水素雰囲気中でX線回折を行い、水素吸蔵によるNi/Pd微粒子の構造変化を調べた。水素は、Pd層に速やかに吸蔵あるいは放出され、直ちに平衡状態に達する。水素の高速吸蔵・放出が生じるのは、Pd層が数十nmと非常に薄く、単位体積あたりの表面積の割合がバルクのPdよりの非常に大きいためである。水素雰囲気中でPd層の構造は、α相からβ相に変化し、格子定数は約4%膨張した。また、Pdの被覆量の異なるNi/Pd微粒子について測定した結果、Pdの層厚が小さいほど格子定数の伸びも小さくなり、水素吸蔵量が減少することが分かった。Ni/Pd微粒子の水素圧力-組成-等温線図測定から得られた水素吸蔵特性も同様の傾向を示し、Pdの被覆厚の小さいものほど平衡状態図におけるプラトー領域が狭くなり、水素吸蔵量が減少することが分かった。また、その平衡圧力(プラトー圧)が高くなる。これは、水素吸蔵特性にサイズ効果が存在し、微粒子や薄膜にすることによって内部全体の歪みがバルクに比べ大きくなることにより、水素化が妨げられていることを示している。水素雰囲気中で磁化測定を行い、室温では水素中の磁化が減少することが分かった。Pdの被覆厚の異なる試料を測定することにより、磁気近接効果によってNiとPdの界面においてPdの磁気分極が誘起されること、Ni界面近傍で磁気分極したPdの磁気モーメントは0.3μ_B程度であることが分かった。強磁性近接効果は、低温で顕著にあらわれ、Ni/Pd複合微粒子の磁化は80K付近で緩やかな極大を持ち、50K以下では強磁性に転移し磁化が急増した。この微粒子に水素を吸蔵させると水素吸蔵前にみられた磁化増大は抑制された。これは、水素吸蔵によってPdの磁化率が減少して強磁性分極が起こりにくくなるためであり、ストーナーの強磁性条件ともよく一致している。また、Ni/Pd微粒子は、PdとNiの界面に界面磁気異方性が生じているため、比較的大きな保磁力(約130Oe)を持つが、水素吸蔵により減少することが分かった。水素吸蔵により界面磁気異方性エネルギーも減少し、保磁力が界面磁気異方性から生じていることが分かった。 以上から、これらの結果として6件の学会発表、4件の論文発表を行った。
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