研究概要 |
アルカリ金属、3d遷移金属の高分解能(0.1a.u.以上)コンプトンプロファイル(CP)の測定値と、局所密度近似(LDA)によるFLAPW法での計算値に見られる不一致が、LDAを越えた多電子効果{自己相互作用補正(SIC)、電子占有関数の評価)をCPの計算に取り込むことで、どの程度改良できるかを明らかにするのがこの研究課題の目的であった。前年度はS1Cの効果を調べ、そのCPへの寄与を明らかにした。今年度はコンプトン散乱系の電子状態“準粒子状態"を直接扱うことを試みた。すなわち、動的にスクリーニングされた電子状態を記述をするGW近似をFLAPW法で取り扱うプログラムを開発し、アルカリ金属Liへ適用した。Liは電子系は簡単であるが、閉殻にp-電子が存在しないため、価電子状態が不均一で、電子気体モデルがうまく適用できない物質である。実際、実際、精度の良いCPの測定値は、多電子効果を考慮した電子気体モデル、LDA内でのバンドモデルで求めた結果と大きく異なり、結晶内電子系への電子相関効果をきちんと取り扱うことが指摘されていた。今回の研究で、Liの電子状態をFLAPW法で計算し、GW近似内で自己エネルギーを評価し、電子占有数(N(p))を求めた。期待されるように、LiのN(p)は大きな異方性が見られ、フェルミモーメンタムでの分布の変化が電子気体モデルで予想される値より小さいことが指摘された。これらの結果から得られたCPは測定値を驚くほど良く再現することがわかった。この結果は国際会議(Second International Workshop on Compton Scattering and Fermiology, Tokyo, August 1995)で発表し、論文にまとめた。
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