量子力学が微視的あるいは「中間視的」のみならず、真に巨視的と見なされ得る体系に対しても妥当な理論なのかどうか。この問題に関し、以下の二方面から考察を進めた。(イ)三年ほど前から東北大学で行われている実験(ヘリウム3を液体ヘリウム4に溶かした過飽和混合液体に於ける約10mK以下での二相分離)の結果を理論的に解明するための第一歩として、量子核形成過程を一個の集団的自由度(即ち核の半径R)で記述する模型を考察した。この模型自体は古くから知られているものであるが、従来の理論的取り扱いでは、「膨張する核の有効質量がRに依存する」ことに起因する効果が適正に考慮されておらず、これを正すと、核形成率に10の30乗もの違いが出ることが判った。こうして得られた理論結果に基づいて上記の実験を解析し、約一万個の原子集団が関与し手いるという意味で(準)巨視的スケールの量子的形成が観測された可能性がある、という予備的結論を得た。(ロ)いわゆる巨視的量子現象(これには上述の核形成も含まれる)を観測することの意義を整理し、そこにおける量子コヒーレンスと(測定器も含む)環境の及ぼすデコヒーレンスの役割について論じ、その理論的定式化の枠組みに対する批判的総括を行った。
|