スピングラスのようなフラストレーションのあるランダム系で、一般に準安定状態が多数存在すると考えられている。そのような状況の下では多くの場合「ガラス的」な緩和現象が見られると予想され、実験的にも多くの物質で観測されている。 異常長緩和現象を説明する理論の背景には、相関の強いスピンクラスターの形成・成長が本質的であるという考えがある。本研究では、クラスターの形成そのものに焦点を絞り、それを空間的な秩序構造の一形態とみなして解析することによって、クラスターの振舞が異常長緩和現象へ果たす役割を解明することを目指したものであった。この目的のため、次のような構成で研究が進められた。 1.どのような長緩和現象が発現するかを知るために、短距離相互作用型の±JイジングスピンEdwards-Anderson(EA)模型の高温側における自己相関関数q(t)の性質をモンテカルロシミュレーションによって綿密に調べ、特に対応する強磁性模型の転移温度以下におけるGriffith相にどのように移行するかが解明された。 2.異常長緩和現象は、モンテカルロシミュレーションを行なう上で、大きな障害となる。殊に、低温側では熱平衡に至る時間が計算実行可能時間を大幅に上回り、事実上実行不可能であった。この困難を克服するため、我々がレプリカ交換法と呼ぶ新しいシミュレーションの方法を開発し、その有効性が確かめられた。 3.上記の方法によって±Jイジングスピン模型の2点空間相関関数を求め、その固有モードとクラスターの定量的定義とし、その性質、特に1.で明らかにされたGriffith相への推移とクラスターの変化との関連を明らかにする計画であったが、残念ながら本格的解析までに至らず、今後の課題として残された。
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