平成6年度は、主として一分子当たり炭素数3の1価のアルコールであるn-プロパノールとその異性体であるi-プロパノールの液体・ガラス転移、ならびにそれらの水素結合を切る働きをするジオキサン、過塩素酸リチウムを添加した場合のガラス転移に及ぼす効果を、誘電緩和、エンタールピー緩和、広帯域ブリルアン散乱、ラマン散乱により調べた。誘電緩和、エンタルピー緩和の測定からは、マクロなスケールの緩和であるα緩和における緩和周波数ならびにその分布の温度依存性を得ることができた。その結果、緩和周波数はフォーゲル・ファルチャー則に従い、また拡張指数型緩和関数の指数は液体状態ならびに過冷却液体状態を通してデバイ緩和のほぼ1に近いが、ガラス転移直上では急激に小さくなることが明らかとなった。この結果は、この指数の温度依存性がほとんどないというモード結合理論の結果を支持している。また、局在化した分子の運動の対応するβ緩和は一般に誘電測定にはかかりにくいが、過塩素酸リチウムをわずかに添加して水素結合鎖を部分的に断ち切ることにより、誘電測定においても感受率の虚部のピークを観測することができ、緩和周波数の温度依存性はアルヘニウス則に従うことを見出だした。またラマン散乱測定からは、および水素結合間距離、中距離相間距離の液体・ガラス転移にともなう温度依存性を正確に決定した。これらの結果を総合的に扱うことによりモード結合理論、パーコレーション理論等との比較検討、ならびにガラス転移点近傍のクラスター構造、中距離相間距離を与える構造単位などについて考察した。
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