近年、液体ガラス転移のダイナミクスの研究では、モード結合理論、分子動力学シミュレーションとの理論から導かれる結果を検証するために、可能な限り小さい分子からなる液体についての研究が望まれていた。そこで、本研究では、急冷せずともガラスになる液体のなかで、α-緩和がVogel-Fulcher則にしたがい、かつ分子の最も小さいアルキル基の炭素数が3の低級アルコール(プロピレングリコール、プロパノール、トリメチレングリコール、プロパノール、エチレングリコール)について、複数の異なる測定法により広い周波数範囲で動的感受率の測定を行い、その液体ガラス転移にともなう動的性質の温度依存性を調べた。実験方法は低周波数領域の動的性質は、誘電分散測定、光熱法による熱容量スペクトロスコピーにより主としてα-緩和を調べ、高い周波数領域は、ファブリペロ-干渉計によるブリルアン錯乱スペクトルとトリプルグレーティングスペクトロメーターによるラマン散乱スペクトルを接続することによりα-緩和、速い緩和、ボソンピーク、水素結合をした水酸基の伸縮振動バンドを調べた。これらの測定の結果、水素結合間距離の変化は、自由体積変化と類似の振る舞いをすることがわかった。また、広帯域散乱スペクトルの解析は、現象論的に(1)α-緩和、(2)速い緩和、および(3)ボソンピーク、の3つの項を考えて感受率を計算し、ほぼ実験結果を再現することができた。また、この結果から、速い緩和についてはその周波数はほとんど温度に依存しないが、その成分強度はVogel-Fulcher温度に向かって減少することが明らかとなった。またこの現象の説明のため自由体積理論による考察を行った。
|