複雑系(脂質や高分子系)における構造形成に関して、実験・計算機実験の両面から研究を行い、今年度は以下の様な知見を得た。 1.長鎖状n-アルカン結晶の、代表的な低指数面における結晶成長過程を明らかにするため、界面の微視的構造を計算機実験(モンテカルロ法)を用いて研究した。界面における分子鎖の吸脱着過程、境界面近傍での結晶構造の乱れや液体構造の秩序化現象、などに注目した。異なった面指数を持つ結晶面に関して計算を行い、面指数によって界面構造や結晶化過程が著しく異なることを見いだした。表面自由エネルギの興味深い温度依存性が示唆され、結晶化過程の新たな視点を見いだした。 2.アルカン結晶内における分子鎖の長距離拡散の可能性は、以前の実験から予測されていた。ここでは、アルカン単結晶を用いた接合系を作り、接合界面近傍での構造の変化を光学的に観察し、相互拡散現象の存在を直接的に検証した。分子鎖の拡散により顕著な構造相転移を示し、且つ構造相転移が光学的に最も明らかに観察できる様に拡散対を工夫した。接合界面近傍(数十μ)では、分子鎖の相互拡散が明らかに観察された。拡散の速度、異方性、温度依存性などを明らかにした。かなり長い分子鎖が、分子軸に垂直方向および分子軸に平行方向に、活発な相互拡散を示すこと、その素過程がその場観察によって明らかにされた。
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