樹枝状結晶の成長形態は非線形・非平衡現象に基づくものであり、特に拡散場の造る形態形成の代表例である。塩化アンモニウム水溶液から成長する4回対称性をもつ樹枝状結晶は過飽和度の増加に伴い、先端成長方向が〈100〉から〈110〉へ転移し、その遷移領域で複雑な先端分岐成長形態を示す。〈110〉成長を混在させながら全体として〈100〉方向に成長する遷移領域の最も低過飽和度側では、通常の〈100〉樹枝状結晶形態から形態転移した規則的先端分岐成長が観察される。塩化アンモニウムの実験結果から、規則的先端分岐成長の成長速度はパルス的に変化し、通常〈100〉成長領域の81μm/sと、〈110〉成長が支配する分岐成長の49μm/s領域とに2分される。また、規則先端分岐成長の平均的な成長速度はこの2つの領域の比率に依存して変化し、過飽和度の上昇とともに成長速度が減少する負性成長特性を示している。 一方、結晶界面におけるミクロな粒子運動が形態に与える影響を調べたラプラス場の2次元モデルシミュレーションでは、実験結果に対応する〈10〉成長、〈11〉成長、DBM成長、フラクタル成長形態は再現されたが、規則先端分岐形態は見られなかった。〈10〉成長から規則先端分岐成長への形態転移を調べるため、結晶をとりまく拡散場と、結晶界面上のミクロな粒子運動を考慮した粒子シミュレーションを用いて樹枝状結晶成長の計算を行った。〈100〉方向に成長する結晶先端が濃度勾配の上昇によって〈110〉異方性転移が生じ、これが種となって左右対称の横枝が形成される。横枝の成長が拡散場に影響を与え、結晶先端の濃度勾配を減少させ〈100〉方向に先端が成長する。横枝の影響が無視できるまで成長すると、濃度勾配が上昇して再び〈110〉方向の異方性転移が起こり、これを周期的に繰り返すのが規則先端分岐成長の成長機構である。
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