本研究は1/f異常揺らぎを生み出すハミルトン力学系の精密構造を解明することを目指す。ハミルトン力学系は非双曲的力学系であり、これまで良く研究されてきた双曲的力学系とは全く異質な挙動を示す。また、これまでのカオス理論を適用することができない所に困難さがある。本研究ではハミルトン系の持つ性質を 1.多自由度系の運動と輸送現象への影響 2.散乱(開放)系の異常輸送現象 3.量子系のカオス統計と輸送現象への影響 という3つの側面から研究し、クオ-ツ系の異常揺らぎ、クラスター形成に伴う一般的1/f揺らぎの発生機構を明らかにした。また、計算途中の結果も含め、得られた成果は次の通りである。 1.格子振動系のリーマン幾何学化によって、異常揺らぎの発生原因が正曲率空間における淀み運動にあることを確認した。また、曲率分布関数が逆ベキ則に従うことを精密に決定した。2原子格子モデル、戸田格子などにおける熱伝導方程式類似の熱揺らぎをシミュレイーションで示し、カオスの発生によって輸送係数の振舞いを定性的に説明することができた。また、一般の多体系クラスターの形成においても、1/f揺らぎが発生することを示し、これがやはり淀み層理論と定性的に一致することを明らかにした。 2.三体クラスターの散乱カオスがア-ノルド拡散を示すことを明らかにし、共鳴状態がトーラスの形成と密接に関係していることが結論できた。散乱時間の分布は逆ベキ則に従い、やはり正曲率空間での淀み理論に従うことが示された。また、ポテンシャル散乱ではSubdynamics理論の高次衝突項の精密なシミュレーションによって、Resonance tailの出現をはじめて明らかにした。Resonance tailと淀み運動との関係については、まだ結論が得られていない。 3.開放系ビリヤードの散乱状態に準定常共鳴状態が存在し、そのレベル統計は一般にブロ-ディ分布に従っていることを明らかにした。また、S-行列の計算から異常伝導が共鳴状態に由来していることを確認した。また対円型ビリヤードで間欠性カオスを示す力学系を構成し、1/f揺らぎとレベル統計の関係を現在模索中である。
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