単独重合体からなる高分子結晶において、二次相転移、もしくは臨界点の存在が厳密に証明された例は国内外を通じてこれまでなかった。私たちは、ナイロン66の単結晶において二次相転移が生じることを発見し、その成果に基づいて本研究を計画した。本年度、新たに得られた成果を以下に記す。 1.0.05%溶液から145℃で析出させたナイロン66結晶(試料A)は195℃近傍に比熱極大を示し、0.5%溶液から145℃で析出させたもの(試料B)は190℃近傍に比熱極大を示す。 2.試料Aは、大気圧下・195℃で低温相の中に高温相が現れ、二相共存の状態を示した。即ち、一次相転移が起こっている。一方、試料Bは大気圧下では連続的な構造変化であり、一次相転移ではないが、圧力が100MPa以上で一次相転移を示した。即ち、大気圧と100MPaの間の圧力下に臨界点の存在することが確認された。 3.試料Bの大気圧下における圧縮率の温度依存性を測定した結果、比熱極大の温度でほぼ発散するという臨界現象的挙動が見いだされた。これは臨界点が大気圧近傍にあることを示している。 4.理論計算では、ナイロン66結晶の分子内・分子間相互作用をともに評価して状態和を計算した。その結果、相互作用ポテンシャルマップの形状、特に対称性の違いにより、一次相転移と二次相転移の起こることが分かった。また、平均場近似により、比熱異常の実験結果が理論的に説明できた。 5.フッ化ビニリデン(VDF)/三フッ化エチレン(TrFE)共重合体においても、ナイロン66同様臨界点の存在が示された。また、平均場近似により、その比熱異常のVDF分率依存性が説明できた。
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