水平な細管中をゆっくり血液が流れる場合、血液中の赤血球は可逆的な凝集体を形成して沈降する。凝集体沈降の流れへの影響を調べるため、平成7年度においては、凝集体に働くずり応力にくらべ赤血球間の凝集力が比較的弱い場合に適用できる流動モデルを作り、流体力学的手法を用いて流れを解析した。 個々ばらばらに流れていた赤血球は流れが遅くなると管の至る所で小さな凝集体を形成し、それらが個々に沈降すると予想される。そこで、定常状態においては、凝集体の沈降によって管の下部にできる赤血球濃度の高いサスペンション層が上澄み液であるプラズマ層と分離して流れるとし、その界面は滑らかで水平に保たれるとする2層流動モデルを採用した。また、血液はニュートン流体であると見なし、その粘性率は赤血球濃度とともに指数関数的に増加するとした。このモデルを用いて、管内の速度分布、見掛けの粘性率、単位時間に輸送される赤血球の体積等を求め、これらのおよぼす沈降程度の依存性を明らかにした。また、これまでに報告されている実験結果との比較検討を行った。 血流抵抗は沈降程度の増加とともにゆるやかに減少し、最小値に達した後急激に増加し最大値に至ることが示された。沈降程度の大きい領域における血流抵抗の振る舞いは、実験結果を良く再現した。しかし、沈降程度が小さい領域において、血流抵抗が最小になる沈降状態が存在するという興味ある結論は実験的にはまだ確認されておらず、今後モデルの正当性の吟味が必要であると思われる。これらの結果の一部は、国内の関連学会(第18回日本バイオレオロジー学会年会、第20回日本微小循環学会総会)および国際会議(the 9th International Congress of Biorheology)にて報告され、議論された。結果は論文にまとめられ、国際雑誌BIORHEOLOGYに投稿された。
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