微小血管内のある区間にある瞬間滞在する血液中の赤血球濃度(Tube Hematocrit:H_T)は血流抵抗を決定する重要な因子の一つであり、酸素の組織への分配を決定する重要な因子の一つであことが知られている。ガラス管等での実験から、直径がおよそ300μm〜30μmの細管では、H_Tは管から流出した血液中の赤血球濃度(Discharge Hematocrit:H_D)より低い値をとることが知られており、この現象はFahraeus効果と呼ばれている。流動する血液中で形成される赤血球の凝集体とその沈降は、この効果に著しい影響をおよぼすと予想される。そこで、平成8年度においては、これまでに提案した二種類の流動モデル(剛体核モデルと二流体モデル)を用いてH_Tと赤血球凝集体の沈降程度との関係を理論的に考察した。その結果、赤血球間の集合力が比較的弱いヒト全血の場合には、二流体モデルが適していることが示され、H_Tは平均ずり速度の減少にともなって増加し、約1sec^<-1>以下のずり速度では逆に、H_T>H_Dとなることが示された。この結果の一部は関連学会にて報告され、日本バイオレオロジー学会誌に投稿された。 赤血球の凝集体形成は時間に依存する現象であり、したがって、凝集体が流れに及ぼす効果は時間に依存すると考えられる。大きな圧力差のもとで個々ばらばらに赤血球が分散して流れている状態から急激により低い圧力差に変えることによって形成される凝集体の時間変化を調べるため、凝集体形成過程に対する運動論的モデルを作り、凝集体の大きさを時間の関数として求めた。この結果を用いて赤血球の平均速度、見掛けの粘性率等を求め実験結果と比較した。その結果、凝集体が形成され始める初期の期間、および比較的細い管の場合を除き、ここで提出したモデルは実験結果を再現した。この結果は現在まとめているところであり、初期の凝集過程についての新たな考察を行っているところである。
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