血流が非常に遅くなると赤血球は集合し可逆的な凝集体を形成する。本研究においては、血流におよぼす赤血球凝集体形成とその沈降の効果がモデルを用いて理論的に見積もられ、報告されているいくつかの実験結果と比較された。(1)水平細管を流れる血液の見掛けの粘性率におよぼす凝集体の効果:凝集傾向の程度に応じて二つの流動モデルが提案され、見掛けの粘性率が求められた。(a)凝集力が強い場合の「剛体核モデル」に基づいて、見掛けの粘性率と沈降程度の関係が求められた。この結果は実験結果を良く再現した。また、凝集し沈降して流れたほうが血流抵抗が低くなる場合があることが示唆され、その条件が示された。(b)凝集力が弱い場合の「二流体モデル」に基づいて見掛けの粘性率が求められた。その結果、沈降程度の大きい領域においては見掛けの粘性率は沈降程度の増加とともに増大し、その振る舞いは実験結果を良く再現した。(2)細管内赤血球濃度におよぼす凝集体の効果:水平細管内に、ある瞬間滞在する血液中の赤血球濃度と沈降程度の関係が上記二つのモデルを用いて求められ、実験との比較から赤血球濃度のずり速度依存性が定量的に求められた。その結果、低ずり速度領域では細管内濃度は流出した血液中の赤血球濃度より高くなることが示唆された。(3)凝集体形成の過渡現象:赤血球凝集体の形成過程に対する運動論的モデルが提案され、凝集体の大きさが時間の関数として求められ、赤血球の平均速度が時間の関数として求められた。凝集体形成初期を除けば、求められた結果は定性的定量的に実験結果と良く一致した。 ここで提案されたモデルはある限られた条件の下でのみ有効であることは言うまでもない。特に生体中での現象を理解するにはさらなるモデルの改良が必要である。ここで得られた結果はそのための基礎となるものである。
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