伊豆半島を含むフィリピン海プレート北端部の現在のテクトニックな応力場は、フィリピン海プレートの相模・駿河トラフからの陸側プレート下への沈み込み、及び、伊豆半島付け根部分での陸側プレートへの衝突というプレート間相互作用に強く依存している。そこで、当該地区での海・陸プレート間相互作用とに媒質構造の3次元幾何学的不均質性とを考慮した有限要素モデルを構築し、弾性体変形に関する3次元有限要素法数値シミュレーション実験を通して、この地域における応力場のメカニズムについて検討を試みた。プレート相互作用としては、(1)フィリピン海プレートの陸側プレートに対する定常的沈み込み運動と(2)海・陸プレート境界面での断層的滑り運動とを考えた。又、海・陸プレート境界面の3次元的幾何学は、微小地震の震源分布等から推定されているフィリピン海プレート上面の等深度線分布を考慮して決められた。 18世紀初頭に2つの巨大地震(1703年元禄地震と1707年宝永地震)が相模トラフ、駿河・南海トラフ沿いに発生していることに注目し、これらの地震発生後の当核地域の応力場を基準となる"初期応力場"とし、その後のプレート相互作用により生成された応力場を現在のテクトニックな応力場と見なした。その結果、(1)陸側プレートに対してN30°Wの方向に4cm/yrの速さで進行するフィリピン海プレートの定常的沈み込み運動を想定し、(2)駿河トラフ及び相模トラフに沿う海・陸プレート境界面の深さ30km以浅の各部分に1854年安政東海地震と1923年関東地震による「地震断層滑り」や境界面の30km以深の部分に「断層的滑り」を想定し、一方、伊豆半島北西部の仮想プレート境界面には衝突作用を考慮した「仮想的断層滑り」を想定する、というフィリピン海プレート北端部域に対するテクトニクス・モデルを得た。観察されている応力場は、このモデルにより、概ね良く説明されることが確認出来た。
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