可搬型の広帯域地震観測点約10点で構成される30km程度の小スパンのアレイを用いて遠地地震の連続観測を行った。 本研究の第2年度にあたる1995年4月中旬に、第1年度に九州北部熊本県阿蘇地方に設置した広帯域地震計ネットワークの観測点を10点から4点に縮小し観測を継続した。 現在までの観測で得られたデータを整理したところでは、次のような特徴を持つ多くのやや遠地の地震の表面波形を記録することが出来た。(1)マグニチュード5以上、(2)震源距離が約200km以遠、(3)地殻内およびやや深発、(4)地震の方位は全体で270度近くに及ぶ。これらは、地殻のS波速度の異方性の検出に適する。 このように取得したデータを用いた表面波アレイ解析や変換波検出の解析など、解析手法の整備を行なっている。具体的には、(A)短周期表面波(ラブ波及びレイリー波の基本モードと高次モード)の位相速度の推定。従来のフーリエ・スペクトルを用いる方法に加えて、ウエーブレット変換を利用する方法を検討している。(B)表面波の分散からアレイ直下の地殻の平均的一次元S波速度構造とその方位異方性を推定する手法の開発を行なっている。(C)遠地地震のP波後続波とS波先駆波の解析を通して地殻での変換波を抽出し、アレイ直下のP波及びS波速度の短波長の深さ変化を推定する手法の適用を検討中である。 これらの地震学的研究と並行して、下部地殻を構成する岩石の組成や強度にあるいは電気伝導度に関する実験データあるいは観測データを整理・検討した。 上記のような地震学的に推定された異方性を制約条件として、物質科学的研究の結果を併せて総合的考察を行い、下部地殻のテクトニクス(流動・変形の様式など)についての制約条件を明らかにする予定である。 さらに、ネットワーク観測は概ね順調に進んだが、本観測遂行に従って、収録器やその周辺で大小さまざまなトラブルが発生し、それらの解決の過程で収録システム全体の問題点が明らかになったことは、もう一つの重要な成果であったことを付言する。
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