本研究では、申請者がこれまでに開発してきた数値モデルを基にして、熱帯低気圧の構造や発達だけでなく、発生のメカニズムをも従来より適切に表現できるようにモデルを改善し、また熱帯低気圧の発生過程をより深く理解するための数値実験を行った。とくに改善のポイントとしては、このモデルではメソスケールに組織化した対流をあらわに表現していることが特徴であるが、その中で用いている積雲対流スケールのパラメータ化の方式において、放出される熱の鉛直分布や雲の微物理過程の効果の取り入れ方を改善することによって、メソスケールに組織化した雲の振舞いを改善することができた。この改善にあたっては、計算時間をできるだけ有効に使うために、非静力学2次元モデルも併用し、対流の組織化のメカニズムなど問題の本質を理解しつつ、その結果を3次元モデルに組み込んで現実的な熱帯低気圧のモデルへと改善した。また、これまでは、3重格子モデルにおける格子間の境界から発生するノイズに問題があったが、この点もかなり改善できた。 一方、熱帯低気圧の発生過程のメカニズムの理解については、とくに、メソスケールに組織化された対流がどのような振舞いをすることによって、さらに大きな渦へと組織化するのか、風や温度場のメソスケール構造がどのように変化して、熱帯低気圧の発生に至るのか、などを明らかにすることができた。しかし、予定していた研究のうち、実際に観測されたデータを初期条件として用いた数値実験による複雑な条件の下での熱帯低気圧の発生の問題については時間的な制約で行うことができなかった。 数値実験では主にスーパーコンピュータ(東京大学大型計算機センター)を用い、得られた計算結果は主に汎用計算機を用いて図で出力した。補助金の大部分は計算機使用料に充てた。
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