研究概要 |
Legras and Ghil(1985)により提出された簡略化された大気循環モデルを用いて,天候レジーム間の変動の力学的構造を明らかにし,予測可能性の時間変動との関係について調べた.このモデルは帯状流強制と散逸と地形効果を含む25元の低次スペクトルモデルである. 帯状流強制の強さを表す無次元数ρを実験パラメータとして,モデルの有するアトラクタの力学的特性がρにどのように依存しているかを調べた.ρが小さいときのアトラクタは固定点(安定平衡解)である.ρを大きくしていくとホップ分岐が起こり,アトラクタが固定点→リミットサイクル→トーラスT^2と遷移する.さらに大きなパラメータ領域では,固定点とトーラスT^2の2つのアトラクタが共存する.この固定点が不安定化し,ホモクリニック的なカオス解が出現する.これよりρをわずかに大きくした領域では,このホモクリニック的な軌道ともう一方のトーラス的な軌道が交互に不規則に出現するカオス解となる.更にρを大きくすると,はじめのホモクリニック的なカオス軌道に似ているがより複雑な構造をもつアトラクタになる. 次に,典型的なアトラクタ8例を選び,有限時間リアプノフ安定性解析を行なって,軌道がアトラクタ上にあるときの誤差成長率の時間変動を調べた.カオス解では特に,誤差成長率がアトラクタ上での位置に大きく依存することが分かった.ホモクリニック的なカオス解では,誤差成長率は軌道が平衡解に近づいているときに小さく,平衡解から離れていくときに大きくなる.これは,Mukougawa et al.(1991)が3元のロレンツモデルの間欠的カオス解で得た関係と同様のものであり,大気予測可能性の問題に直接適用できる関係であることが具体的に確かめられた.
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