本研究は、1997年に打ち上げられる熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載される降雨観測レーダーの周波数帯における降雨粒子による散乱および吸収特性を厳密に計算し、MUレーダー観測に基づく降雨構造モデルを用いたシミュレーションを提案されている多くの一次処理アルゴリズムに適用し、降雨構造を最も精度良く再現するように統合された処理アルゴリズムを開発することを目的としている。 本年度には、まず降水粒子による電波の散乱ならびに吸収特性に関する詳細な理論計算を行なった。理論計算についてはほぼ計画通りに計算プログラムが作成でき、従来の研究結果と比較してその精度を検証した。シミュレーションのために購入したワークステーションも予定通り納入され、期待された性能を発揮している。これによって任意の降雨粒径分布を持つ降雨モデルに対してTRMM降雨レーダーで観測されるデータをシミュレートする準備ができた。 これと並行して航空機搭載レーダー観測による海面反射エコーの詳細な解析を行なった。これによって観測データより得られる経路積分減衰量(PAI)の精度を定量的に評価することが可能となった。 主要な推定誤差の原因のひとつと考えられる降雨の空間的不均一性については、理論的見積りによりどの程度の不均一が問題となるかを評価し、これを検証するために京都大学MUレーダーを用いてTRMM降雨レーダーのビーム照射体積内での降雨の空間不均一性を測定する観測モードを開発し、試験観測を行なった。その結果に基づいて予定される信号処理アルゴリズムの予備的評価を試み、降雨の水平面内の局在性が大きな誤差要因となり得ることが明らかとなった。
|