瀬戸内海の燧灘などでは夏季に海底付近にも水温躍層が形成され、貧酸素水塊の形成の主要因の一つとなっており、この躍層は底部水温躍層と呼ばれる。この底部水温躍層の発生機構を理論的に考察し、底部水温躍層は中層の加熱と潮流による海底付近の混合によって海底混合層の上部に形成されるものと推定した。この理論に基づき、鉛直混合エネルギーの収支を考慮して底部水温躍層の海底からの高さを推定する式を作成した。この式によれば、海底混合層の高さは潮流の振幅の3/2乗に比例する。この式を瀬戸内海に適用し、瀬戸内海の多くの灘に底部水温躍層が形成され得ることを示た。この結果の妥当性を確かめるため、瀬戸内海の各地の水温データを収集して比較した結果、ほぼ理論式で推定される位置に底部水温躍層が形成されていることが確かめられた。また、底部水温躍層の形成に必要な中層の加熱機構を明らかにするため鉛直2次元の数値モデルによる実験を行った。この結果、中層の加熱には周辺の混合域から成層域の中層へ貫入する密度流による熱輸送が大きな役割を果たしていること、このような密度流の存在なしでは底部水温躍層は形成されないことが明らかになった。このことから、成層した灘と鉛直に混合した海峡部の混在する瀬戸内海の構造が底部水温躍層の形成に重要であることが示された。また、播磨灘における水温の経年変動について検討した結果、底部水温躍層の年による違いが赤潮の発生の有無と関わりが深く、底部水温躍層の形成されている年には赤潮が発生していないことが明らかとなった。
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