木星からのデカメートル波領域における自然電波放射は、惑星探査機ボイジャーによる直接観測にもかかわらず、その電波放射源の位置は未だにあきらかとなっていない。これは、デカメートル波領域という電波天文学においては極めて長い波長であるために、マイクロ波領域のように簡単にアンテナの指向特性をあげて電波源の位置を測定するという技術が使えないためである。地上観測の場合には、地球の電離層がこのデカメートル波領域の電波に対して非常に大きな影響を与えることになり、さらに状況が悪くなってしまう。 一方、今までの観測・研究によると木星デカメートル波放射の右旋円偏波成分と左旋円偏波成分とは、異なった位置の電波源によるものであることがいわれているので、偏波という観点から見たVLBIによる電波源の位置変動の観測は木星電波の放射機構を解明する上で非常に重要である。 本研究においては、従来行われなかった右旋・左旋円偏波の独立したVLBIを同時に行うことにより、偏波特性から見た木星デカメートル波放射源の位置変動を観測しようというものである。すなわち、今までに行われてきた木星電波のVLBIは、すべて直線偏波の成分のみを扱っており、得られる情報としては木星電波源の大きさの上限のみであった。ところが、右旋・左旋の両円偏波成分を同時に観測し干渉させれば、両円偏波成分の放射源の位置が同じであれば同じ干渉出力を得ることができるし、もし違えば異なった干渉出力を得ることができるわけである。 実際に開発した観測システムにより観測されたデータを解析したところ、右旋・左旋円偏波の電波源の干渉パターンの位相角の差がほとんど同じ観測例を見いだすことができた。これは、右旋・左旋円偏波の電波源は同一の場所であることを示唆しており、非常に貴重な情報を得ることができた。
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