赤色を呈する地層は世界各地において認められ、これまでにも堆積学的、地球化学的に数多くの研究が行われてきた.特に乾燥砂漠気候、高温多湿気候などの古気候と、陸域河川での酸化環境などの堆積環境との成因的関連性が注目されている.しかしその赤色化過程には未だに明確にされていない点も多い.九州とその近接地域の白亜系もしばしば赤色岩層を挟在するが、その検討はあまり進んでいない.平成8年度は本研究の最終年度として、前年度までに引き続き九州中部に分布する白亜系赤色岩についての補足的調査と顕微鏡、X線、化学分析などによる室内研究を進め、得られたデータに基づいて総括的考察を行った.各地域においては赤色岩は化石・岩相上の証拠から陸成ないし汽水成とみなされる地層中に含まれ、色彩境界は層理面と平行で赤色化は基本的には堆積成と考えられる.また赤色岩・非赤色岩は共に深成岩、変成岩などからの砕屑物の供給を受けており、赤色を呈するか否かは基質部を充填する微粒の赤鉄鉱の有無によることが明らかになった.赤鉄鉱の生成には後背地の基盤岩からの鉄分の供給と、有機物に乏しい地表ないしその近くの酸化的堆積環境が重要な役割を果たしたものと推定される.東アジア、特に中国とインドシナの白亜系赤色岩の生成に大きな役割を果たしたと考えられる蒸発乾燥気候は九州の赤色岩形成には重要な影響は及ぼさなかったものと推定される.このことは九州とアジア諸地域の白亜紀における地質環境の差異を示すものである.
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