研究概要 |
層状チャートは,海洋プレートの沈み込みにともなって形成された付加体(いわゆる混在岩相)の重要な構成員である.変動帯の発達過程に加え付加テクトニクスの内容を知るために,日本列島の骨格を構成している白亜紀とジュラ紀付加体における層状チャートの岩石組織の検討を行なった.従来予想されていたのとは異なり,層状チャートは破砕されていることが多く,その岩石組織から岩体に激しいテクトニックな外力が働いたことが明らかになりつつある.それには,崩壊による未淘汰な乱雑堆積を示唆する堆積組織,固結していく続成過程に関連する圧力溶解などを示す縫合組織,微小な断層といった,おそらく沈み込みのオフスクレーピングにともなう破壊組織,さらに深所におけるより高温条件下でおこった,おそらくアンダープレーティングに関係した再結晶組織などがある.層状チャートには,このように地表から地下深所までのいろいろな条件における現象が保持されているので,その系統的な調査によって付加プロセスの解析が可能と考えられる. 海洋酸素欠乏事件による生物の絶滅を示す層準として注目されるペルム紀と三畳紀の境界に近い地層が,美濃帯のジュラ紀〜白亜紀の付加体中に存在する.そこでは成層した黒色の泥質岩が発達しており,上位に連続的に珪質頁岩から灰色の層状チャートへと移り変わる.ペルム系の少なくとも3層準に,赤鉄鉱の殻で囲まれた黄鉄鉱のノジュールが発見された.それらは径1ないし数cmのノジュールで,層理面に平行にならんで産出し,堆積時に形成されたものと考えられる.ノジュールを断面で詳細にみると,赤鉄鉱の殻の中にさらに薄く黄鉄鉱が葉理状に挟まれており,そういった組織の当時の海洋および堆積環境における短周期の変動を推定させるものと考えられる.
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