本研究は、熱帯性浮遊性有孔虫化石群集が中新世の時代に、日本列島北部へと2度進入した事件を「トロピカル・スパイク事件」と位置づけ、化石群集の東北日本における分布を明らかにすることによって、北西太平洋地域の中新世の古環境変化を包括的に復元することを目指したものである。最初の「トロピカル・スパイク事件」は、16Ma前後に起こり、北海道南部まで亜熱帯の環境が出現したことが分かっており、今回の研究では、2度目の、6Ma前後に出現した事件を勢力的に検討した。 この6Ma前後の事件は、太平洋岸では、仙台付近に分布する青麻・七北層のN17帯を示す浮遊性有孔虫群集によって代表され、12属62種によって特徴づけられる。同時代の群集は、脊稜山脈を越えて、山形県新庄盆地の古口層上部に出現し、その北方延長は、秋田県北部米内沢地域の藤琴川層中(7属27種)に認められた。太平洋岸地方における暖流群集の北方延長は、青森県三戸地方の舌崎層まで追跡され、6属23種から構成されている。このように、熱帯性浮遊性有孔虫化石群集の多様度は、仙台付近から北方の緯度にして2°付近の範囲内で、急速に減少し、北海道石狩地方の同時代の厚田層からは、サハリンのOkobykaiskii層に含まれる群集と共通な種を含む冷温型の化石群が産出する。したがって、6Ma前後の事件は、16Ma前後の事件よりも熱帯性群集の北方への進入はより弱く、東日本北部でその勢力が衰微したと結論される。
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