中生代に多いGryphaea属の二枚貝は、元来は固着性でありながら、その特殊な殻形態と殻の重量のために泥底上でも殻は安定で、自由生活をしていたといわれる。この研究では、その貝殻構造を主として走査型電顕を用いて明らかにし、模型による水槽実験を行って殻形態・重さと生活様式との関連を論ずる。 本年度には主として殻形態と殻の微細構造の観察を行った。観察にはヨーロッパ各地のGryphaea化石試料を用いた。その多くは再結晶していたが、英国南部産および南ドイツ産のGryphaea arcuataでは、元の殻構造と思われる規則的な結晶配列を観察することができた。当初は、このグループの殻も、他の軟泥底にすむカキと同じく、空洞の多い軽量構造をして泥に浮いていたと予想していたが、予想に反して、これまでに調べたGryphaea類では再結晶する前も空洞のない密度の高い殻構造をしていたらしいことがわかった。そして、これらが方解石からなる交差板状構造をつくっていることもほぼ確かめられた。カキ類にはこれまで交差板状構造の存在は知られておらず、従来の研究ではその大部分は葉状構造で、表面に稜柱構造がある、とされている。もっとも、研究担当者のこれまでの調査で、カキでもHyotissa類では交差板状構造が主体をなすことがわかっている。Gryphaeaはこの点でHyotissaと近縁だといえる。
|