カキ類は元来は固着性だが、中に泥底上で自由生活をしているものがいる。Gryphaeaはその代表的な種類で、その特殊な殻形態と重量により泥上で安定で姿勢を保持していた、という従来の考えを検証するため、主として走査型電顕を用いて殻構造を確かめ、また靱帯の構造を調べて、その構造と機能の関係を考察した。 1.Gryphaea類の殻は一般に変質が激しいが、昨年度にGryphaea arcuataで確かめられた構造が他の種類でも認められた。すなわち、この貝の殻は主として方解石の交差葉状構造からなる。これはC軸方向に細長くのびた方解石の板状結晶が平行に配列して層状をなし、これが積み重なったものである。同様な構造は現生カキのHytissaでも認められた。重要なことは、Gryphaeaには殻を軽量化する殻隙の多い構造が存在しない、と言う点である。原理的にこの重く厚い殻をもった貝が泥より比重が軽いはずがないから、Gryphaeaはよく締まって比重の大きい泥底上に生息していたものと結論される。 2.エジプトの上部白亜系産のIlymatogyraおよびRhyncostreonの殻構造について調べたところ、いずれも殻は交差葉状構造からなっているが、前者には厚いチョーク層と空洞が認められ、多くのカキ類と同じように殻の軽量化が見られたが、後者にはそれがなく、両者ではことなる適応形態を示している。 3.カキ類およびその他の固着性・潜在性二枚貝と、殻を急速に開閉する遊泳性二枚貝との靱帯構造を比較検討した。急速開閉する二枚貝の靱帯は中央部の弾性体部と、それを両側から挟む石灰化の進んだ部分とからなることがわかった。両者では、有機物繊維の配列が異なることがわかった。このことは遊泳のために殻を急速開閉させる必要と関連があると思われるので、新しい問題に発展する可能性が強い。
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