中生代のカキ類、Gryphaeaは、海底の泥上に生息し、その弯曲した全体形と比重の大きい殻によって軟らかい泥の上で姿勢を安定に保っている、とされてきた。比重が大きければ貝は泥に沈む。この研究は、Gryphaea類の殻構造を研究して、泥上に浮くための軽量構造を保持しているかどうかを確かめることが第一の目的である。 Gryphaea殻の多くは変質し、再結晶しているが、元の構造を残した試料も発見された。Gryphaeaの殻は短冊状で薄い方解石の結晶が密に積みあがった葉状構造(Foliated structure)の薄層からなる。これは薄板状で細長く伸長した結晶が互いに平行に集まってくる。殻は、葉状構造の単層が少しずつ結晶の伸長方向を異にして重なり、全体として交差葉状構造をつくる。これはHyotissaその他のカキに知られた構造である。今回の研究で判明した重要な点は、Gryphaea類には他のカキに普通に見られる軽量構造が見つかない点である。これらから見て、Gryphaeaはよく締まり、比重の大きい泥の上だけに生息していたと結論された。一般に泥上にすむカキは、殻内部に空隙の多いチョーク層あるいは蜂の巣構造の層があって、これによって殻の層比重を小さくして泥に浮いて生活している。エジプト産の白堊紀カキ類のRhuyncostreonなどにはチョーク層が、Ilymatogyraには空房が観察された。これらはGryphaeaとは違う適応戦略を採用している。 なお、固着性のカキ類の殻の開閉機能を受け持っている蝶番の靱帯構造と、遊泳性のホタテガイなどの二枚貝との靱帯構造の差異を調べた。遊泳性の二枚貝類では、中央部に有機物の繊維状構造からなる弾性の高い部分があり、これが両縁部の石灰化の進んだ部分に挟まれていることがわかった。繊維の配列方向は、いずれも圧縮に平行であるが、中央部では貝殻の軸に平行であるのに対し、縁部では直交している。
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