研究概要 |
本研究の目的は琉球列島・サンゴ礁域の海底洞窟中に生息、分布する洞窟固有の貝形虫種の起源と洞窟環境への適応と進化を明らかにすることにある。 平成6年度については'生きている化石'と呼ばれるSaipanetridac科の「新属」の起源と進化を主な研究テーマとして、平成6年6月、沖縄本島近くの伊江島の「大洞窟」において調査、試料採取を行ない、洞窟側壁の裂かより2個体の「新属」の生体標本を得た。「新属」の殻の電子顕微鏡による観察、写真撮影により得られた事実と生体標本の軟体部(附属肢)の解剖により明らかになった形態上の事実を、特に近縁な貝形虫属であるSaipanettidae科の他の2属、即ち、Cardobairdia,Saipanetta等との比較の下、分類学的に詳しく検討した。その結果、洞窟固有のSaipanetiidae科の「新属」はジュラ紀以来、その殻形態、泥底での生活様式をほとんど変えず、正に'生きている化石'と言えるCardobairdiaに極めて近く、恐らく、「新属」はこの深海性の貝形虫であるCardobairdiaあるいはこれに極めて近縁な貝形虫属に由来すると考えられる。「新属」についてはこの「起源」の他、洞窟んな今日への適応、生き残り戦略に関し得られた知見の一部をすでに「化石」誌上で公表しているが、さらに分類学的記載も加えた英文の論文を公表すべく準備中である。「新属」以外にも洞窟固有種が数種、認められており、平成7年度にはこれらの種も加えた、洞窟固有種の洞窟環境への適応戦略を明らかにしたい。
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