研究概要 |
この研究は,浅所マグマ溜り内の組成構造やその後の固化過程を推定する目的で,単一深成岩体である沢入花崗岩体における各種組成(鉱物,元素,同位体組成)の三次元分布(垂直,水平分布)を明らかにした。この研究では,沢入岩体のほぼ中心部において実施されたボーリングの試料(約1500m)と,地表面からの計約40個の試料を用いた。 岩体における主要元素組成の垂直分布は,地表面から深部に向かい,SiO_2%はわずかながら増加の傾向を示した(71.5-74.0%)(右図)。またFe_2O_3, MgO, MnO, K_2O/Na_2Oは,深部に向かい増加し,Al_2O_3, CaO, Na_2Oは減少の傾向を示した。微量元素に関しては,深部に向かいBa, Rb, Y, Zn, U, Th等が増加し,Srは減少の傾向を示した。これに対し,元素組成の水平分布では,岩体の縁部より中心部に向かいSiO_2%やRb/Sr, Baなどは,著しくはないものの,増加し,珪長質よりに変化する傾向が確認された。この岩体の深部に向かって珪長質になる傾向は,従来報告されている大崩山,有明花崗岩等の垂直方向の元素分布(Takhashi, 1990 ;山口他,1994)とは明らかに逆のパターンを示している。また,岩体の中心部に向かい珪長質に移化する傾向は,環状深成岩体の正の累帯構造に類似した組成構造と考えることができる。また岩体を通してほぼ一定の^<87>Sr/^<86>Sr比はこの岩体のマグマ形成時に周囲の地殻物質を同化・混合しなかったことを示している。 これらの元素,同位体的特徴を考慮すると,この単一深成岩体は閉鎖系で,in situでの分化作用によって形成されたものと考えられる。この固化過程では,岩体周縁部から中心部に向かって結晶化が進行し,その時の分化により組成勾配が形成されたものと推定される。
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