研究概要 |
主として,平成6〜7年度に行った別子型鉱床の閃亜鉛鉱のX線マイクロアナライザーによる微量元素の分析結果は,概ね次の1,2のように要約され,その結果は資源地質誌に平成8年度に印刷された. 1.閃亜鉛鉱のMn/Zn,Co/Zn比は接触変成作用によって著しく増大する場合があるが,Cd/Zn比は殆ど変化しない.Mn/Zn比は広域変成作用でも増大した可能性がある. 2.変成作用以前の閃亜鉛鉱のMn/Zn,Co/Zn,およびCd/Zn比から,熱水中のこれらの比を推定した.その結果,別子など四国中央部三波川帯の鉱床や丹波帯の土倉鉱床をもたらした熱水は,東太平洋海膨北緯21度の熱水にこれらの比に関して類似していることが判明した.日立鉱床に対応する熱水は低いCd/Zn,Co/Zn比で特徴づけられる.日高帯の下川鉱床の銅に富む鉱化作用に関係した熱水はCo/Zn比が高い特徴がある. 以上の結果は,別子など四国中央部三波川帯の鉱床や土倉鉱床,茨城県日立,および北海道下川の鉱床はそれぞれ形成環境が異なる可能性のあることを示している.鉱床地質と既に得られている硫化物硫黄の同位体比,および鉱石の微量元素組成のデータを組み合わせ,可能性のある鉱床形成場を推定した.チャートを欠く下川鉱床や槙峰など四万十帯の鉱床は,重い硫黄同位体に富み,現世のファンデフカ海嶺などに類似した砕屑性堆積物に覆われた海嶺で陸源物質の強い影響下で形成されたと推定される.下川鉱床には錫や放射性鉛の含有量の多いこともこの考えに調和的である.四国中央部三波川帯の鉱床形成場は相対的に陸地から遠い海嶺であろう.日立鉱床の形成場としては,背弧海盆あるいは大陸内リフトが考えやすい.以上の鉱床形成場の議論はIsland arcに平成8年度に印刷された.なお,日立鉱床の形成環境の推定に重要であると考えられる鉛同位体比の測定は現在進行中である.
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