研究概要 |
別子型鉱床の研究は、主にそれらの多産する四国を中心とする三波川帯のものに限られていた。それらの鉱床は、生成後P-A相からE-A相に及ぶ広域変成作用を受けているので、それらの地質学的・地球化学的初生像を明らかにすることは一般に困難を伴う。換言すれば、三波川帯の鉱床はその変成像を研究するのに好適である、ということができる。本研究では、三波川帯の様々な程度に変成を受けた試料に加えて、他のテレーンのより低変成度もしくは未変成試料中の共存黄鉄鉱および黄銅鉱間のイオウ同位体分別を測定した結果、高変成のものは比較的均一な分別を示すのに対して、低変成のものはそのバラツキが大きいことが判明した(Watanabe et al.,in print)。未変成の試料他を加えてレーザー・ビーム法により分析を行ったところ、未変成試料が中央海嶺に伴う熱水鉱床の硫化鉱物に類似の同位体比をとり、かつ狭い範囲におさまることは注目に値する(Watenabe et al.,準備中)。三波川帯の中でP-A相の枕状玄武岩溶岩についてはRb-SrおよびSm-Nd同位体比測定を行った結果、Rb-Srアイソクロン年代は107±15Ma、初生値は0.70401±0.00006であり、この年代は玄武岩の受けた変成年代を示す。この値はそれらの玄武岩溶岩の起源が海洋島の性格を帯びたdepleted oceanic mantleにあることを示している(Watanabe et al.,投稿中)。次に三波川帯の別子型鉱床産試料のK-Ar年代測定の結果は約60〜112Maを示し、80Ma頃の年代が最も多い(Watanabe et al.,投稿中)。内帯と外帯の別子型鉱床を比較すると、前者は島孤の影響下にあるback-arc basinにおける玄武岩質の海底火山活動に伴って石炭紀末〜二畳紀初めに生じたのに対して、後者は大陸の影響のないintra-oceanic plateにおける同様の火山活動に伴って三畳紀末〜ジュラ紀末に生じたと結論される(Watanabe et al.,投稿中)。
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