研究概要 |
阿武隈山地の竹貫変成岩において,閃緑岩質貫入岩体の接触部にある角閃岩中に,はんれい岩からトロニエム岩質の岩脈がネットワーク状に分布している.これらの岩石の産状,組織,鉱物組成,主成分および微量成分組成の特徴は,ソレアイト質玄武岩組成の角閃岩が部分溶融し,メタアルミナスなカルクアルカリ岩質のマグマを形成したことを示す.部分溶融は,800℃以上,3kb,そして水に富んだ条件で起こった. このマグマの形成プロセスを明らかにするために,希土類元素組成の定量的なモデル計算を行った.マグマの発生と分化のプロセスについて,それぞれ部分溶融と結晶分化作用を考え,部分溶融については異なる3つのメカニズム,すなわち平衡溶融,分別溶融,そして非平衡溶融を,結晶分化作用については分別結晶作用を検討し,次のような結果を得た.起源角閃岩が非平衡の部分溶融し(溶融度約25%),まずトロニエム岩質の液を,次いでト-ナル岩質の液を生成・分離した.溶融残滓として,枯渇角閃岩が残った.生成したト-ナル岩質の液(ト-ナル岩I)は10〜30%の分別結晶作用により,集積物としてはんれい岩,石英閃緑岩をつくり,ト-ナル岩IIに分化した.分化はト-ナル岩IIでとまり,トロニエム岩までにはいたらない.このように,ト-ナル岩やトロニエム岩の生成においては平衡溶融や分別結晶作用よりも,直接的な非平衡溶融が重要な役割を果たした. なお,この報告ではまとめきれなかったが,マグマの移動・濃集過程の力学的なメタニズムの解明に現在取り組んでいる.さらに,紀伊半島の熊野酸性岩中のマフィックな捕獲岩類についての研究も進行中であり,下部地殻への玄武岩質マグマの付加作用による地殻下部物質の溶融・同化を示すモデルケースとしてその実態を明らかにしていきたい.
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