京都府北方の舞鶴帯、丹波帯においてトリアス紀初期の黒色頁岩約40試料を採取した。これらの試料を調整し、炭素、窒素元素分析(現有設備)、ガスクロマトグラフ分析(平成6年度科研費新設設備)、ガスクロマトグラフ質量分析(現有設備)を実施した。その結果、これらの頁岩中にはバイオマーカー化合物が有意に含まれており、トリアス紀黒色頁岩は、ペルム紀チャートやトリアス紀粘土質岩と比較して高いコレスタン存在度によって特徴づけられていることが明らかになった。著しく還元的な環境の下で有機物が保存され黒色頁岩が形成されたことも考えられるが、これまでの文献から、黒色頁岩形成時の海洋環境はそれほど還元的ではなかったものと考えられる。したがって、コレスタンに富む黒色頁岩はトリアス紀初期の海洋にしばしば高い基礎生産性が出現したことを示しているものと考察した。トリアス紀初期には大陸分裂が著しくなり、新しい海流系が形成されるなど、当時の海洋がしばしば活動的になった。それにともない、海洋中層の栄養塩に富む酸素極少層が海洋表層にしばしば湧昇したため高い基礎生産が実現したものと思われる。一方、ペルム紀のチャートやトリアス紀の粘土質岩は海洋環境が比較的穏やかな時期に形成されている。ペルム紀末期のチャートは酸素極少層の拡大期に形成され、この時期に海洋生物の大量絶滅が生じたものと考えることができる。以上の研究成果は英文論文にまとめ、国際学術誌に投稿中である。
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