1反応用ノズルを作り、気体電子回析装置に組み込んだ。これは螺旋状の石英管の外側にヒーターを巻いて、中にマグネシウム粒を充填したものであり、高温のマグネシウムの表面で気相のハロゲン化アルキルと反応させる事を期待した。これにCH_3ClやCH_3Brの気体を流し、ヒーターによる加熱温度を変化させながら、ノズル出口に対置した質量分析計で生成物を分析した。温度は室温から約500℃、試料の押し圧は10〜50Torr.で変化させた。どちらの試料の場合も約400℃まで温度を上げるとハロゲン化アルキルの熱分解による生成物が生じるが、期待されたCH_3MgClやCH_3MgBrは検出されなかった。 2次に、マグネシウムの蒸気と気相のハロゲン化アルキルを反応させる意図で、別種のノズルを作った。これは、石英製の加熱炉内でマグネシウムを加熱し、生じた蒸気をハロゲン化アルキルの気体の流路に導く構造をしている。マグネシウムの加熱のためのヒーターはハロゲン化アルキルの流路を直接加熱しないようにして熱分解を防いだ。このノズルに、CH_3ClとCH_3Iを流し、上と同様に生成物を分析した。この場合もグリニャ-ル試薬は検出されなかった。 3本研究とは別に、分子科学研究所との協力研究において、マグネシウム蒸気の雰囲気中にCH_3Clを吹き出してミリ波スペクトルを測定したが、CH_3ClとMgClの吸収線のみが観測された。 以上の結果から、ハロゲン化アルキル(気体)+マグネシウム(固体)ハロゲン化アルキル(気体)+マグネシウム(気体)のいずれかの系においても、ハロゲン化アルキルへのマグネシウムの挿入は起こらないことが判った。これは分子軌道法での予測とは異なる結果であり、グリニャ-ル試薬の生成または生成後の安定化に溶媒が重要な働きをしていることを強く示唆する。
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