本研究では、申請者らが本学において最近立ち上げた「超高分解能二波長レーザーしきい光電子分光装置」を用いた。この装置を用いて、種々のベンゼン置換体およびそれらのファンデァワールス錯体を取り上げ、イオン化ポテンシャルを波数分解能の精度で決定した。実験の手順は次のようである。(1)試料分子をパルスノズルから真空中にジェット噴流させ、冷却分子をつくった。(2)2台のレーザー光(励起光およびイオン化光)を照射し、2光子共鳴イオン化を起こした。(3)放出される光電子のうち、特に運動エネルギーがゼロの光電子(しきい光電子ともいう)を、イオン化レーザー波長の関数として捕集した。この方法では、(1)特定の分子種のみ選別できること、(2)イオン化ポテンシャルが波数分解能で決定できる特徴がある。本研究で取り上げた試料のイオン化ポテンシャルをまとめると次のようであった。トルエン71208cm^<-1>、フロロベンゼン74241cm^<-1>、クロロベンゼン73184cm^<-1>。さらにアルゴンとのファンデァワールス錯体のイオン化ポテンシャルは次のようであった。トルエン-Ar錯体71039cm、フロロベンゼン-Ar錯体74013cm^<-1>、クロロベンゼン-Ar錯体72982cm^<-1>。これらのベンンゼン置換体については、アルゴン錯体のイオン化ポテンシャルが決定されたのは初めてである。これらのベンゼン置換体にアルゴン原子1個が付着することによるイオン化ポテンシャルの減少は次のようであった。トルエン169cm^<-1>、フロロベンゼン228cm^<-1>、クロロベンゼン202cm^<-1>。なお、すでに、ベンゼンの場合は174cm^<-1>、アニリンの場合は111cmの減少が知られている。今回の研究から、ハロゲン置換体におけるシフトが非常に大きいことがわかった。その他のベンゼン置換体についても、同様な測定を行った。
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