研究概要 |
理論X線吸収スペクトルを求める場合の,分子軌道法の有効性とその制限を明らかにし,スペクトル中に現われるピークの生成機構を,散乱の視点から議論できることを示した。さらに,配位構造や化学状態等の化学的知見をXANESから求めることを目的とする解析を行った。応用として,共鳴電子捕獲質量分析スペクトルの解析を行った。 1.分子軌道法によるXANESスペクトルの計算 総合的にバランスがとれているDV-Xα法をもとに,X線吸収スペクトルの計算ためのソフトウェア開発を行った。分子軌道法によって得られる離散準位と,X線吸収スペクトルに関わる連続状態との関係を調べるとともに,水素分子イオンの連続状態について,分子軌道法で求めた波動関数が,厳密解とよく一致する良質のものであることを示した。X線吸収スペクトルを求めるのに必要な,波動関数の空間領域を明らかにした。 2.XANESピークの特徴と原子間距離 XANESはEXAFSと同様に散乱波の干渉によるものであることを明らかにし,さらに,EXAFSと見かけの大きく異なるスペクトルが出現する理由は,分子のポテンシャル形状に敏感なためであることを見いだした。これに基づき,原子間距離,原子番号によるスペクトルの系統的な変化をいくつかの化合物について明らかにした。従来の理論および経験的関係式を整理し,理論式の前提条件は不適当であることを指摘し,経験式を支持する計算結果が得られることを示した。 3.共鳴電子捕獲質量分析法への応用 共鳴電子捕獲質量分析法において,イオン化のために照射する電子が特定のエネルギーの場合に,分子の特定の部位の結合が選択的に切れる。これは,X線吸収スペクトルのピークと対応する現象であって,有機酸に共通に見いだされている質量分析パターンについて,分子軌道計算によって,エネルギーと結合の切断部位を求め,実験結果と良い一致を得た。
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