本研究は動的な酸化還元過程を示す系の設計合成を通じて、それぞれの酸化段階の構造や性質を調べ、これらの物質の応答性分子としての有効性を追求することを目的としている。6年度には一電子酸化によって新しい共有結合が生じる分子を中心に検討をし、環状化合物1を用いた研究を行なった。1ではそのリングサイズによって中性状態での空間的相互作用の有無や酸化状態での渡環結合の形成のし易さが大きく変化していることが明らかとなった。即ち、UVスペクトルや酸化還元電位の比較からは8員環状の1bに於いて相互作用の存在が顕著である。実際、1bの2電子酸化によって生成する塩では2b^<2+>に示すような渡環結合が形成されていることがX線解析から確認された。また、10員環状の1cのジカチオン塩でも渡環結合の形成が示唆され、2c^<2+>はシス-デカリン構造を有している。一方、類似の渡環結合が生成すると歪みの大きなビシクロ[2.2.0]骨格となる1aではヨウ素による酸化では、3a^+に示すような架橋結合を有する塩を与えることも明らかとなった。また、2b^<2+>の二電子還元では1bが再生することから、このものは全体として可逆なサイクルを形成する。
|