研究概要 |
申請者は最近(E)-スチルベン類が結晶中において異常に短いエチレン結合長と分子構造の著しい温度依存性を示すことを見いだし,その原因がC-Ph結合の大振幅ねじれ振動にあることを明らかにした。同様の現象は(E)-スチルベン類と類似した分子骨格を持つ化合物であるビベンジル類においても起こると考えられる.ビベンジルの構造についてはこれまで繰り返しX線結晶解析が行われ、そのエタン結合長が異常に短く観測されることが知られている。この現象に対しては未知の電子的効果に原因を求めた説明が行われているが,未解決である。そこで,ビペンジルおよびそのメチル置換体について温度変化X線結晶解析を行なった。 ビペンジルのエタン結合長は240Kにおいて1.506 (5) Åと短い値を示すものの,温度の低下とともにその値は増大し,100Kにおいては1.529 (3) Åで,MM3 (92)による予測値1.538Åに近い値となった。2,2′-ジメチルビベンジルも同様の傾向を示した。これは以下のように説明できる。結晶中においてC-Ph結合のねじれ振動がベンゼン環の動きを最小に保ちながら起こる。観測されるのはその平均構造であるから,エタン結合の観測長は真の長さよりも短い。温度の低下とともに振幅が小さくなるため,観測長は真の値に近づく。o-位の置換基の有無によってエタン結合長の温度依存性が異なる原因は,C-Ph結合のねじれ振動のポテンシャルの違いにもとづいて説明できる。すなわち,これまで知られていたビベンジルの異常に短いC-C結合の原因は,結晶中におけるC-Ph結合のねじれ振動に由来する構造の乱れにあったのである.
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