研究概要 |
前年度までは、もっぱら炭素・炭素結合を研究対象としてきたが,今年度は対象をC=N結合およびN=N結合に拡張した.代表的なC=N結合の異常は、ベンジリデンアニリンに見られる。この化合物のC=N結合長は,室温におけるX線結晶解析によると1.237(3)Åであるが,これは最近Allingerらの分子力学計算による値1.293Åより著しく短い,また,アゾベンゼンのN=N結合長は、室温によるX線結晶解析によると1.247(2)Åであるが,これはジアゼン(HN=NH)のN=N結合長1.252(2)Åよりも短い,これらの結合の異常な短縮も,(E)-スチルベン類の場合と同様に,分子内大振幅運動に由来する外見上の結果であると可能性が高い,そこで、平成7年度においては,一連のベンジリデンアニリン類とアゾベンゼン類を合成し,それらの温度変化X線結晶解析と理論計算(MM3)を行って,これらの化合物におけるC=NおよびN=N結合の真の長さを推定するとともに,結晶内での分子内運動の様子を推定した.ベンジリデンアニリン類については,サリチリデンアニリン類では分子内水素結合のために,大振幅ねじれ振動が抑制されていることがわかった.また,アゾベンゼン類では,大振幅ねじれ振動によって2つの回転異性体間の動的平衡が存在し,それが結晶の相転移とも関係していることが明らかになった.
|