本研究で用いた基質は主に置換基の異なる種々の環状および非環状のアセタール、チオアセタール、そしてヒドラゾン、トシルヒドラゾン類である。また、ピリリルム塩としては、フェニル基のパラ位に種々の置換基を有するトリアリールピリリウム塩を用いて反応を検討した。アセタール類の脱保護反応では、アセタールの酸化電位が3V付近と極めて電子供与性に乏しいため励起状態のピリリウム塩とは容易に一電子移動反応を起こすことはできないはずであるが、実際のところ、ほとんどアセタール類で反応はすみやかに進行し、対応するカルボニル化合物が収率よく得られてきた。また、カルボニル基の酸素源は水に由来することも明らかになった。 一方、アセタール類の脱保護反応とは対照的にチオアセタールやヒドラゾン類では、水の存在下では反応はほとんど進行せず、酸素の存在下でのみ反応が効率よく進行することを見いだした。チオアセタールやヒドラゾン類はアタール類に比べて酸化電位が1〜2V程度と比較的電子供与性に富み、励起状態のピリリウム塩とは容易に一電子移動反応を起こすことがわかるが、実際、これらの基質では、マグネシウム塩の添加によって反応が促進されたり、テトラメトキシベンゼンのような電子供与性の高い添加物を加えることによって、反応が抑制されたりという一電子移動経由の反応に特長的な現象が観測されることから、反応中間体としてカチオンラジカル等が生成されていることが示唆される。以上、本研究では、1)ピリリウム塩による光増感電子移動反応系が、種々のカルボニル保護基の脱保護反応に対して有効に働くこと、2)反応に用いるピリリウム塩は1〜10%程度という触媒量で良いこと、3)光化学的な方法によっても脱保護反応が可能であること、4)従来の重金属(水銀化合物等)を用いる方法に比べて、本システムが環境に優しい方法であること等を明らかにした。
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