研究概要 |
従来、イリドの関与する一電子移動過程は、わずかに反応機構の側面から述べられているに過ぎない。著者らのこれまでの研究から、例えば典型的な高安定リンイリドであるフルオレニリデントリフェニルホスホランは半波酸化電位が、0.29V(vs.SCE)と優れた一電子移動性を示した。本研究課題では安定リンおよび関連イリドの一電子移動を鍵とする新規反応および関連した反応の開発について検討した。主な結果を以下にまとめる。 1.フルオレニリデントリアリールホスホラン誘導体(FL)を合成し、見積もられた半波酸化電位は0.06〜0.34V(vs.SCE)と良好な一電子供与性を示した。特に3,6-ジメトキシフルオレニリデントリフェニル体(DMFL)は、最も高い一電子供与性を示した。 2.イリドFLと種々のジアゾニウム塩(置換ベンゼンジアゾニウム、o-アルケニルおよびアルキニルオキシベンゼンジアゾニウム)との冷時反応を調べたところ、DMFLのみ脱窒素を伴うホスホニウム塩の生成、一分子のジアゾニウム塩の分子内Meerwein反応を伴うジアゾニウムの二量化生成物、または分子内Meerwein反応につづくイリドの付加-脱メチルによるキノイド化合物が生成した。他のイルドではジアゾカップリングが起こったのみであった。 3.イリドDMFL-置換ベンゼンジアゾニウム系は、ラジカル重合開始剤として作用し、容易にポリメタクリル酸メチルを温和な条件下与えた。 4.イリドDMFLと過酸化ベンゾイルとの反応ではペルオキシドO-O結合の切断を伴う、フルオレノンのアセタール化生成物を良好な収率で与えた。
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