研究概要 |
(η5-シクロペンタジエニル)(1、2-エテンジチオラト)コバルト(III)の2核錯体8種を合成し、それらの電子授受における性質をまず電気化学的に検討した。用いた8種の複核錯体は、Co,S,C,C,Sの5つの原子で構成されるメタラジチオレン環の1つの炭素の上で2つのジチオレン錯体が結合した構造を持っており、もう1つの炭素上に置換基をもった構造をしている。これら複核錯体の酸化環元特性をサイクリックボルタンメトリー(CV)により調べた結果次の3点が明らかとなった。 1)用いた錯体はいずれも可逆的な還元波を2つと非可逆な酸化波を1つ示した。金属錯体間の相互作用を評価する尺度として、2つの還元の半波電位の差、ΔE、を用いた。8種の複核錯体の傾向とし、電子求引性の置換基ほどΔEが大きくなること、即ち1電子還元体の安定性が高くなること、が判明した。 2)そこで、8種の複核錯体のもつ置換基の定数(ハメットのσp)とΔEをとの相関をとると、置換基としてベンゼン環を持つ(4-フェニル基)複核錯体と、置換基としてベンゼン環を持たない複核錯体とでは異なった2つ右上がりのの直線を与えた。即ち、この結果は置換基としてベンゼン環を持つ複核錯体の4位の置換基の効果はハメット定数から予想されるよりも小さくなっていることを示している。これらの結果はΔEの大きさが置換基の電子的要因のみではなく、立体的要因にも影響を受けていることを示しているものと考えられる。 3)分子力場計算(MM2)によると、フェニル基を持つ複核錯体のもっとも安定な構造は2つのフェニル基がいずれもコバルタジチオレン環に対して捻れているが、2つのコバルタジチオレン環は同一平面内にある配座であることが解った。このことは、ベンゼン環上の4位の置換基の電子的効果がπ電子系を通じて中心金属まで100%伝わっていないことを示すものと考えられる。一方嵩高い基であるフェロセニル基の場合は計算結果から2つのフェロセニル基が互いにアンチの関係に固定されて居り、2つのコバルタジチオレン環の平面性はかなり保たれている。以上のことは、複核金属錯体の電子移動において、2つの金属を結ぶπ電子系の立体配座の関係が重要であることを示している。
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