本研究は、電子受容性増感剤である2、4、6-トリフェニルピリリウム塩(TPP)、2、4、6-トリフェニルチアピリリウム塩(STPP)、および9、10-ジシアノアントラセン(DCA)を用いて、有機化合物のカチオンラジカルを光照射により発生させ、その反応性を増感剤の形成する環境場がいかに制御するかを明らかにしようとしたものである。概要は以下のとおりである。 1.ベンゼン環の4-位にメトキシ基を有するジアリールエタナ-ルのカチオンラジカルをTPP、DCAを用いて酸素下で発生させ、それに由来する生成物を検索し、また、レーザーホトリシスによって反応の初期過程を探った。この化合物のカチオンラジカルは、TPP増感とDCA増感とでは、結合開裂の様式が異なることを発見した。 2.テトラキス(4-メチルフェニル)エタノンのカチオンラジカルの反応性をTPPおよびDCA増感により酸素下で検討した。その結果、電子移動により生じたカチオンラジカルは、C-C結合開裂を起こし、DCA増感の場合には、カチオンラジカルより生ずるトリ(4-メチルフェニル)メチルカチオンとスーパーオキシドアニオンラジカルとが反応して生成物を与えることを明らかにした。 3.光増感により酸素下で発生させた9、10-ジヒドロアントラアセンカチオンラジカルは、増感剤がDCAのときはアントロンを与えるが、それがTPPのときは、アントラセンを反応の初期で与えることを明らかにした。 4.TPPおよびSTPP増感と、DCA増感における酸素化生成物をいくつかの芳香族オレフィンで比較することによって、スチルベンやトリフェニルエチレンのカチオンラジカルは分子状酸素と反応するが、テエトラフェニルエチレンカチオンラジカルは反応しないことを見い出した、これらはみな、スーパーオキシドアニオンラジカルとは反応する。この反応性の差異の由縁をレーザーホトリシスおよび分子軌道計算によって推定した。
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