菌体と藻類の共生体である地衣類は、雨水や土壌中の金属イオンなどの汚染物質を取り込む性質をもち、このため環境汚染の生物学的モニターとして近年注目を集めている。 本研究は地衣成分であるウスニン酸のβ-トリケトン構造に着目し、ウスニン酸およびその誘導体について種々の重金属イオンとの錯形成能を錯体の合成と構造解析により明らかにした。 ウスニン酸の銅(II)錯体およびパラジウム(II)錯体、ウスニン酸のエナミン誘導体[=C_<(11)>‐(CH_3)NHR][R=H、メチル(MAUA)、エチル、フェニル(PAUA)、ベンジル]およびそのパラジウム(II)錯体の合成を行なった。銅(II)錯体およびパラジウム(II)錯体の各種スペクトルより金属結合部位に関する知見が得られた。また、ウスニン酸の銅(II)錯体生成についてそのpH依存性を明らかにした。MAUAおよびPAUAのパラジウム(II)錯体のX線による結晶構造解析を行なった結果、パラジウム(II)はC_<(11)>‐NとC_<(3)>‐Oで結合し、パラジウム平面でトランス結合していることが判明した(図)。これはスペクトルから得られた結論と一致した。 これに関連してヘテロ環を有する天然物(インドール‐3‐酢酸)についてパラジウム(II)との反応性を調べ、錯体の合成およびX線結晶構造解析を行なった。その結果、3位にユニークなスピロ構造を持つ2量体であることが判明した。
|