研究概要 |
(RR)-chxn(シクロヘキサンジアミン)とサリチルアルデヒドおよび3-メトキシサリチルアルデヒドから得た2種類のシッフ塩基配列位子(sal-(RR)-chxn,3-MeOsal-(RR)-chxn)を用いて、それぞれオキソバナジウム(IV)(V)錯体を合成した。アセトニトリル溶液中で、V^VO(sal-(RR)-chxn)Clと V^<IV>O(3-MeOsal-(RR)-chxn)の電子移動反応によりV^<IV>O(sal-(RR)-chxn)とV^VO(3-MeOsal-(RR)-chxn)Clを生成する反応の平衡定数はK=1.0で、25℃の速度定数k=(1.4±0.1)×10^6s^<-1>mol^<-1>dm^3を得た。一方、V^VO(sal-(RR)-chxn)ClとV^<IV>O(3-MeOsal-(SS)-chxn)の反応の25℃の速度定数は、k=(2.8±0.4)×10^6s^<-1>mol^<-1>dm^3で、2倍速いことがわかった。熱力学的パラメーターとして、△H^<【thermodynamics】>_<(RR-RR)>=15.2±0.6kj mol^<-1>,△S^<【thermodynamics】>_<(RR-RR)>=-70.5±1.9 J mol^<-1>K^<-1>,△H^<【thermodynamics】>_<(RR-SS)>=21.4±2.4 kJ mol^<-1 >,△S^<【thermodynamics】>_<(RR-SS)>=-43.8±8.1 J mol^<-1>K^<-1>を得た。これらの電子移動反応のメカニズムとして、軸方向の配位酸素原子をとおした電子移動の可能性を調べるために、いくつかの錯体のX線構造解析を行った。その結果、(V^<IV>O(sal-(RR)-stien)(stien;スチルベンジアミン)について、通常の単核構造の他に、…V^<IV>=O…V^<IV>=O…V^<IV>=0…の一次元鎖を有する錯体の構造を決定し、配位酸素原子の隣接分子との相互作用を明らかにすることができた。光学活性の組み合わせの違いによってバナジウム(IV)(V)錯体間の電子移動反応速度に大きな変化が見いだれたことは、極めて興味深いことである。さらに、…V^<IV>=0…V^<IV>=0…V^<IV>=0…の一次元鎖を有する錯体の構造が決定されたことで、電子移動反応の遷移状態における、配位酸素原子をとおした軸方向の分子間相互作用の重要性が示唆された。これは、配位子をデザインして軸方向の配位環境を立体的に変化させれば、電子移動反応速度と分子認識を制御できる可能性を示し、平成7年度の研究の方向を明確に位置付けることができた。
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