本研究は光学活性希土類(III)およびクロム(III)錯体のCPL分光より時間及び光励起波長に依存する励起電子状態の掌性錯体構造を調べ、ms-μsの時間スケールで光学活性錯体の分子間相互作用、とくにエネルギー移動過程と掌性構造との関係を明らかにすることを目的としている。研究実績として、まず、(1)アミノポリカルボン酸(edds)あるいはODA(C_4H_4O_5)を配位子とする各種光学活性希土類(III)錯体の粉末および単結晶を合成し、さらにクロム(III)複塩についても(+)【Cr(en)_3】(-)【Cr(ox)_3】nH_2Oおよびその掌性符号をかえた他の光学活性錯体をあわせて9種類合成した。(2)光子計数法(PC法)による高感度なTL/CPL測定システムはコンピューターで光弾性変調器(PEM)を外部制御させることで完成し、Tb-1-edds錯体のCPLで検討した結果、これまで研究室が開発してきたLock-in Amp.方式よりさらに2〜3桁感度が上がったことを確認した。(3)TLの強度ならびにCPLの時間変化特性を調べるために、高分解Digital Oscilloscopeをコンピューターと接続させて高感度な発光寿命測定システム(VIS-Decay)を完成させた。(4)Tb-1-edds錯体においてパルスN_2レーザーとPEMを同調させることにより、LCP/RCP変調を受けた発光寿命曲線を観測することに初めて成功した。これより、LCP/RCP成分の単純指数減衰関数としての寿命をコンピューターで処理して求めg値を求めたところ、定常光励起下のg値より小さめに出た。現在、さらにより精度および感度の高いTR-CPL観測システムの最終的開発の一歩手前にある。(5)【Cr(en)_<3〕>【Cr(ox)_3】の形のクロム(III)錯体複塩の分光研究調べたところ、光学活性クロム(III)錯体複塩の発光およびCPLスペクトルが極めて特異で、シャープなPoisson系列の線状スペクトルを生ぜしめること初めて見いだし、これが励起状態における複塩集合体の興味深い掌性構造に起因する事を推論した。
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